松岡正剛「物語編集術」

松岡正剛さんの
編集学校で「物語編集術」という手法が紹介されています。
まんが原作を考える上で大いに参考になります。

ここでは「キャラクタ-」についてのブログ。
http://edit64.jp/00story/2006/09/9.html
を紹介します。

 「キャラクター」が物語の要素として4番目に述べられているあたり
やはりマンガとは違う小説的な物語編集法だな、
ということが解りますね。
やはり、小説はストーリーを大事にしているということなんですね。






以下その引用です。

あなたも物語しませんか。編集学校[破]物語編集術
〜その8「シーン」

あなたも物語しませんか。編集学校[破]物語編集術〜その9「キャラクター」
 ISIS編集学校[破]のカリキュラム「物語編集術」は、物語の五大要素を踏まえて、3000字の短編を書く稽古です。

 “シーン”に続いてご紹介する物語の要素その4は“キャラクター”。登場人物や、その際立った特徴、相互の関係を意味します。物語が活きるかどうかは、 “キャラクター”の設定次第と言っても過言ではないでしょう。その好例を、明治から大正にかけて活躍した二人の作家の作品でお目にかけましょう。

■哀れが匂う 不条理がたちあがる『花の咲く頃』田中貢太郎
 桜の花も盛りの月の佳い晩、若い侍が家路を辿っていた。微禄で一人暮らしの身には待つ人もなく、若い女に行き会う度、彼は足をとめてその姿を見送った。
 切支丹を幽閉処刑する山屋敷の側まで来た時、木陰に蹲るひとりの娘をみつける。聞けば、親に死なれ叔母を頼って江戸に出てきたが、うろ憶えの住所に尋ね る人はなかったという。「軒先でもよろしゅうございますから、今晩だけお泊めくだされますまいか」。きまりわるげに云う娘に侍はおずおずと答えた。「泊め てもよいが、自分は独り身だから」。頬を染めた二人に花が散りかかる。
 夜明け、枕を並べた女を起こさぬようそっと起き出した侍は、音をしのばせて水を汲み火を熾し飯を炊いた。その間、彼はずっとにこにこしていた。
陽が高くなっても起き出さぬ女を心配し、夜具をまくってみると血まみれの首ばかりが転がっている。役所へ届け出ると、女は前日山屋敷で処刑された罪人だと 知れた。呆然としていた侍は、ふいに「あれ、花が散る、花が散る」と暴れて取り押さえられる。狂うて座敷牢に閉じ込められた後は至っておとなしかったが、 春がくる度に、「花が散る、花が散る」と騒いだという。
***
 土佐に生まれた田中貢太郎は、郷里の言い伝えや中国の古譚を元に、数多くの作品を残しました。彼の描くキャラクターは、悪人までが皆どこかひっそりと不 幸で、云いようのない寂しさが作品に漂います。とりわけ哀れなのが、この『花の咲く頃』。若い女を見送る様や、にこにこしながら飯の支度をする仕草の描写 に、孤独で倹しい暮らしと、瑞々しい顎の線やほっそりとした背筋までが浮かび上がります。主人公を襲った不幸の不条理が遣り切れなくて、忘れ難い余韻を残 す短編です